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11 [環境を変えて苦手を乗り越える]

ここまで滞納整理に纏わる話をいろいろしてきましたがそれでも、そうは言ってもうちにはムリと感じたこともあるかもしれません。滞納整理に力不足を感じたり組織が弱いならば、多くを抱え込まずに分業する、外注というのも視野に入れてみてはどうでしょうか。

<市町村の徴税吏員の仕事とは>

法に基づいて滞納処分だけに専念していればよいならば、先の計算式から週に1件できたとして、年間48件の差押えをするというのが仕事ということになります。徴税額はその半額以下となりますがこれが現実です。しかし、滞納件数を48件で割った人数の徴税吏員を配置できている市町村はまずないでしょうし、そもそも徴税吏員1人が必ず年間48件の差押えができているとも限りません。
組織があってそこに人がいて、強力な法が道具として用意されているのに徴収率が100%にならない。このような現状で人を変えても結果が変わらないならば、人が不足しているということなのです。さらには、人を増やしても効果が一時的ならば、視点を変えて取り組まなければ、徴税費の無駄遣いということにもなってしまいます。

<新しい滞納整理に向かって>

滞納整理というのは人を相手にするものですから、人手不足というのは致命的ともいえます。かといって簡単に補充は難しいわけです。政府が行革を推進する限り、人手不足は今後も恒常的に生じてしまうはずです。それならばそれを逆手にとって、滞納整理は徴税吏員だけができる仕事なのですから極めるものは極めて、頼るものは頼るという割り切りも、隙間を埋めるためには必要かなと思うわけです。

<イメージと実態とのギャップ>

法が想定する滞納整理のイメージと実態の間にギャップが生じている原因は、一言で言えば人手不足だからです。皆さんは異動したときに、前任者が受け持ってきた滞納者の大半を引き継がれたと思いますが、他部門へ異動する人から他部門から異動してきた人への申し送りが普通ですから、全体の仕事量を把握した上での再配分や、異動してきた人が新採だから心配りとして内容を吟味して安易なものから徐々に、という発想にはなっていないのです。
もちろん、他の事務とは異なりますからすぐに順応することは容易ではありませんし、向き不向きも少なからずあるかもしれませんが、滞納案件に対する徴税吏員の数が足らない市町村が大半なのです。そのため、つらい思いをする徴税吏員も少なからず存在してしまいます。また、努力は惜しみなく尽くしても滞納案件のすべてを差し押さえて徴収することは、現実にはできませんし、気の毒な人に対する対応も十分ではありません。
かと言って、差し押さえられる財産が見つけられずに執行停止にしてしまうと、滞納者に通知が必要で、さらに差し押さえてある財産があれば解除しなければならないというような事務は、一生懸命にやってきたのに滞納者に敗北宣言をするように感じる人もいることから、徴税吏員としてはなかなか納得できないことでしょう。そのために様子を見る案件が増えてしまう、という現状があるわけです。

<時間と手間を省く体制に変える>

実際には、徴税吏員は滞納整理に絡むもろもろの仕事を受け持つことになるわけですが、それらの仕事の中で徴税吏員がやらなければならない仕事は、実は全体の1/4から1/5の事務に過ぎないのです。このような状況で時間と手間を省くならば、徴税吏員が関わらなくてもよい仕事を仕分けるということです。人手が足りないので、他の職員でもできる仕事は任せて、徴税吏員は徴税吏員の仕事に専念するわけです。
滞納処分の仕事といえば督促状の抽出や発付、調査の決定と実施、捜索の実施、猶予の判断、差押えの実行や換価・充当などもろもろあるわけですが、一方で滞繰個票の打出し、納付書の再発行、督促状の印刷・プライバシー処理、催告書の印刷・封入、所内調査・結果の整理、官公庁・金融機関・関係先調査結果の整理、登記簿謄本等の手配、捜索の下見、鍵屋・立会人の手配、捜索道具の準備、財産別差押調書の準備、分納の管理・慫慂、交付要求書類の準備、公売会場の準備、配当書類の準備、延滞金の計算と未徴収分請求、その他滞納処分に係る準備・実施・完了までの事務一式、滞納処分に係る準備・実施・完了までの事務の中には、徴税吏員でなくてもできる仕事はたくさんあります。つまり、その他の仕事も人がいないので、強力な権限を持つ徴税吏員がついでにやっているわけです。

<足りない人手は3種類ある>

足りない人手は3種類あって、多くの市町村ではマンパワーそのもののほかにお金の知識、それから強い徴税力が不足しています。公権力の行使に絡まない事務は人や機械を活用すれば片づけられますし、お金の知識については広い視点でお金に関する課題に対応できるプロを引き入れること、それから強い徴税力で頼りになるのは徴税OBなどの知識や経験に基づく先導です。

12 [マンパワーは人や機械に頼る]

徴税吏員に足りない人手は補佐してもらうことで解決できます。自分たちでなんとかならないならば、信頼できる人たちに頼めば良いのです。なかなか踏み込みにくい税部門に対しても、総務省自治税務局が「地方税収関連業務について」(平成18年9月13日)という文書の中で、地方税の徴収に関する民間開放への見解を示しています。

<民活の活用は始まっている>

たとえば、督促状や催告書を発付するためには課税データに直近の徴収データをぶつけて、未納のデータを抽出する必要があります。これは大概徴税吏員がやっています。次に、そのデータを使って印刷・裁断して、督促状は圧着処理をしたりシール処理、いわゆるプライバシー保護をして、それから催告書は三つ折りにして封入するという作業があります。これらの事務を、市町村の中には非常勤職員や再任用職員に任せているところがあるのです。
督促状や催告書は、データの抽出から印刷、封入、決定までの作業に2〜3日を要します。その間に納付が確認できたものは、行き違いを詫びる文面にはなっていますが、苦情を減らすために、該当する督促状や催告書を引き抜いてもいます。この作業は徴税吏員がやっています。つまり、ミスが許されない作業は徴税吏員が行って、マンパワーについては応援を仰いでいる市町村があるということです。このように仕事を仕分ければ、民活を取り入れることで徴税吏員が公権力の行使に注力できるようになるわけです。

<優れた人手と知識もほしい>

民活では、非常勤職員や嘱託職員のほかにも窓口業務などを幅広く補佐する民間事業者もいます。また電話催告は、つながりやすい時間帯に一斉に行うのが効果的ですから、人手不足を理由にして催告していないようならば、機械で代用させるのも有効です。さらにFP、ファイナンシャルプランナーに手間や知恵を借りることができれば、差押えや執行停止の判断なども容易になるはずです。

<外注の反動に管理職はほくそ笑む>

非常勤職員には調査だけでなくて、回答の整理や差押書類の下準備なども頼めますが、指示すれば機械的に処理していきますから、財産が見つかった場合は、たとえ少額でも差押調書が作成されて、頼んだ徴税吏員にどんどん返されてくることになります。つまり、調査が進めば差押件数も増えるので、その事務手間も増えていってしまうわけです。
しかし、結果として滞納整理が進んで滞納者の数が減っていくことで、さらに深く広く調査ができるようになって停止・欠損も減っていきますし、差し押さえたことのない財産が見つかっても都道府県が頼れる今ならば、難しい案件でも処理できますから、滞納整理が進みます。やらなくてはならない準備事務ではありますが、依頼すれば楽になることもある一方で、忙しくなることもあるということを認識したうえで、その手間と価値を見極めるのは管理職の仕事ということになります。

13 [足りないお金の知識はプロに頼る]

<FPはときに錬金術師にもなる>

たとえば、生命保険の調査で定期保険を見つけたときに、解約返戻金がない場合は無益な差押えの禁止条項によって徴税吏員は差し押さえることができませんが、一方でFPの視点ならば、保険を解約すれば保険料が不要になるので、そのお金を納税資金に回せるかもしれないとの考えに至ります。
また、良い機会なので保険の内容を見直して、目的に合った保障に整理したらどうかとか、何しろ日本人は8割の世帯が生命保険に加入していて、平均4社入っていて、年間の保険料を40万円も払っているなどと聞いたことがありますから、それはそもそも必要な保険なのかどうかということにもなります。
独身ならば、ヤングケアラーなどで家族を支えているような場合を除けば、あえて入る必要もないはずですが、医療保険は入院時に保証人代わりになるとか、相続でもめていても終身保険ならすぐに支払われるから葬儀費用に使えるとか、保険屋さんに口説かれて入っているような人もいるはずです。FPならば、滞納者の視点で滞納の解消や損得が考えられるので、的確なアドバイスができるのです。

<不安な仕事も民間を活用>

市町村の徴税吏員の多くは踏み込んだ調査や的確な猶予、自信のある停止・欠損ができるお金の知識が足りません。そのために納められない滞納者との納税相談では、少額分納を約束させるのが精いっぱいという現実もあります。現金を持たない人も増えているのです。生命保険や住宅ローンにも換価価値がなくて、差し押さえられなければ様子見だった滞納が、整理できる術はあるのです。財産がなければ法は停止・欠損ですが、財産が作れれば滞納は整理できるわけです。
お金の知識や相談の経験が豊富で、コンプライアンスも厳格な職業がFPなのです。FPに納付相談を依頼している市町村もありますが、さらに滞納処分のサポートも頼めないかということです。

<分納は適切な額と期間で>

徴税吏員は所内調査や機関調査、また納税相談で滞納者から提出された通帳などのほかに、必要があれば捜索によって得られた資料に基づいて現状での納付能力、また今後の見込みを判断するよう習っています。その上で分納額は生活を維持できる金額で、最短に完納できる金額を月額とするように指導されています。
しかし、これがなかなか難しいのです。法に沿った方法で分納額を適切な期間で完遂させるためには、徴税吏員とFPが役割を分担することで実現できるようになります。

<FPが実現する三方良し>

滞納整理といえば、徴税吏員と滞納者はどうしても対立関係に置かれますが、徴税吏員と滞納者の間にFPを加えることでこれを循環構造にできるのです。つまり、滞納者はFPに相談することでお金の問題が片付きますし、徴税吏員は滞納が解消されますし、FPは市町村から依頼料が得られるという三方良しが実現できることになるわけです。

<FPが滞納整理の視野を広げる>

法定の滞納整理は滞納者が持つ財産を処分して納税に充てるものですから、財産を持たない滞納者には非力です。一方で、生活が不安な相談者に対してFPは、相談者の家計を見直して最適なライフプランを提示するのが仕事なので、収支や財産を把握して、節約などによって支出を押さえたり、収入を増やすことで未来の生活を見せて今を改善します。互いに視点が異なるので、滞納整理にFPが絡めば法が届かない滞納でも片付けられる扉が開くことになります。
市町村がFPの導入を図るならば先生扱いは避けて、非常勤職員に任せていた催告書類の準備や窓口対応、財産調査書の作成・整理、差押書類の作成など、公権力の行使に直接は絡まない作業にも積極的にFPを織り交ぜることで常駐化を図って、高い実務能力を滞納整理にも効果的・効率的に活用したいところです。
FPの中には警察OBがいたり、外国語が話せたり、格闘技をやっている人もいるかもしれませんから、幅広い人材が集められる+αの効果も期待できます。必要な能力があるならば、条件を示して優先して採用する方法もあります。

<納税相談ではアドバイザー>

納税相談にFPを同席させている市町村もありますが、家計改善の話はできても公権力に絡む分納の話まではできないので、FPの建前は徴税吏員のアドバイザーとなります。そもそも納税相談は。滞納者に対して徴税吏員が質問する機会です。ですから滞納者も、代理を頼める人は事情を知っている配偶者のほかは原則税理士のみなのです。
つまり、反対に滞納者から相談を受けて付き添ってきたFPがいたとしても、滞納者に助言することはできたとしても、徴税吏員と直接交渉はできません。徴税吏員からすれば個人の秘密に関すること、財産に関することを他人に質問できませんし、困ってしまうからです。
しかし、納税相談に同席する徴税吏員側のFPにしてみれば、建前はアドバイザーでも対面すれば、自分の土俵に乗せたも同然なのです。「金がない」に徴税吏員ならば「分納はできませんか」となりますが、FPならば結果は同じでも、その間にドラマが作れます。滞納者側にも付けますが、行政が相手では労多くして見返りも期待できません。
経験を積んだFPならば、家計に係る相談者の困りごとを俯瞰することで解決に向けた道筋を見つけ出して、そこに徴税吏員が税の滞納整理を被せれば、現実的な滞納解消が図れるはずなのです。さらに、滞納を繰り返させない生活にも導くことができるはずです。

<実行性優先の納税相談>

徴税吏員が行う納税相談では、ありきたりの一括が無理なら分納はできないのかとか、毎月どのくらいなら納められるのかとか、いつまでに完納できるのかというような納税ありきの計画づくりがメインになります。つまり、徴税吏員にとっては、実行性よりも計画重視なのです。
納税は前提ですし、そもそも滞納者は納税するために相談に来ているのですから、そのような対応になるわけですが、FPならば家計を見て納税計画を共に考えますから、相談者に寄り添った実行性の高い計画が作れることになります。

<対話力も高めれば強力な武器>

FPが絡めば、対話力でさえも武器として活用できます。たとえば、このままでは給料や売掛金、企業預金や代表電話番号なども差し押さえなければならなくなるが、そちらも都合が悪いだろうから自主納付してしまわないかとか、滞納者が一番触れては困る財産を差し押さえることなく自主納付につなげられれば、効果的な滞納整理ともなります。信用などの財産の価値を使うわけですが、公務員としてはどうかと思うアクセスも、民活ならば広げられます。
住民や企業は市町村税の納付だけでなくて、まちづくりを協働する金の鶏なのですから、共存する必要もあるのです。無闇に藪をつつかずに滞納が解消できれば、市町村としてはベターなのです。

<FPの目線で財産を見つける>

そもそもFPならば仕組みを捉えて、無駄のない財産調査ができるはずなのです。言い換えれば、FPが調べて見つけられない財産を徴税吏員が見つけられるはずがありません。つまり、FPが財産なしと判断すれば、納められない滞納者を早く救うことができて、また納めない滞納者の財産を特定できれば滞納を早く整理することもできるのです。FPが錬金術師になって、滞納整理の未来を変えるかもしれないのです。
しかし、FPが適切な助言をしたとしても、滞納者が実行できない闇というのもあります。たとえば保険やローンの見直しをアドバイスしても、交渉する相手はプロですから、滞納者は言いくるめられてしまって、業者の言いなりになって助言通りに改善できない場合も多いものなのです。滞納が解消されなければ滞納者も市町村も困ったままですから、何も変わらないということになってしまいます。
そこで、見直しのフォローも必要になってきます。このフォローというのはFPの世界では実行の援助≠ニいいますが、この有無で新しくFPを導入した市町村の間でも差ができるはずなのです。つまり付き添いです。
徴税吏員にFPの資格を持たせてもフォローまで市町村がやるわけにはいきませんが、プロのFPならできるのです。お互いにメリットがありますから、このような契約が結べれば確実性が高まるわけです。

<課題は飲み込む、乗り越える>

課題は、市町村と契約するFPに、実行の援助まで任せられるのかということです。FPが市町村の滞納整理補助と滞納者のフォローという2足のワラジを履くことを、市町村として容認できるのかということなのです。しかし、実務経験のあるFPには金絡みの知恵袋として活用できる利点があります。
収入を増やす、支出や借金を減らすなどのお金に関するノウハウは、法で対応できない滞納者に有効に働きます。苦手なこと、不安なことが解消できれば、徴税吏員として充分な仕事ができるようにもなります。徴税吏員には徴税吏員にしかできない仕事があります、徴税吏員がやらなければならない仕事があるのです。
一方で、そのフォローにも課題があります。フォローは、徴税吏員にとっては有用な方法でも、FPには利益がないからです。FPが滞納者をフォローしても、その仕事に対して見返りが期待できないわけです。保険を見直したりローンを組み替えても、収入が増えるわけではないのです。過払い金の回収のように、取り戻した現金の中から手数料が支払われるわけではないからです。
これを乗り越えるためには生活困窮者支援法などに絡めて、市町村の福祉施策としてカバーする必要があります。フォローに対する対価は、市町村からの委託事業として、弱者保護を図るという建付けの中で実施すると丸く収まるでしょう。

<FPはどこまで期待できるのか>

こんなにアピールすると、FPのことをあまり知らない方はどこまで期待できるのかとか不審に思うかもしれませんから、日本FP協会が毎月発刊しているFPジャーナルという冊子の2022年12月号の事例を参考に、事例解決の具体例を見てみましょう。
滞納者のプロフィールは、55歳の契約社員で独身の方です。近い親戚もいなくてアパートに居住。腰が悪くて、仕事を転々としていますが、クビになると次の仕事が見つかるまでは借金をするなど、ギリギリの生活を送っている人です。
それで現状ですが、1年前から現在の工場で契約社員として働き始めています。ところが9か月働いたところでヘルニアが悪化して、3か月前から休職中です。現在は収入がなくて、預金も底をついてしまっているという状況です。それから家計ですが、基本生活費は8万6千円、住居関連費が5万円、社会保障と税で3万6千円、このうち普徴の滞納が7万円あるようです。それから医療費が5千円、それと借金が4社合計で450万円あって、月8万円を返済中という状況です。
徴税吏員にとっては厳しい相手になると思いますが、FPの動きとしてはこの方が働く意思はあるということなので、体を治すことから提案したようです。社会保険の傷病手当金を活用して手術をさせました。債務整理は法テラスに相談したところ、金額が大きいので自己破産の手続きを申請させたとのことです。破産の決定までは時間が掛かるので、返済が停止されている間に過去に普徴だった住民税滞納分を納付させ、法テラスの費用も用意したようです。その後、税・社会保険料の減免も申請して、一部還付を得ています。今は生活も傷病手当金、これ平均給与の2/3もらえるものですが、これによって安定しているということでした。税法に従う徴税吏員では、こういう風にはなりません。
ちなみにFPの資格ですが国家資格と国際資格があって、国家資格は1級から3級までのファイナンシャルプランニング技能士資格で、一般社団法人金融財政事情研究会が資格を与えています。また、国際資格はCFPで、日本FP協会というところが認定しています。CFPの国内資格としてAFPもあって、国家資格の1級のファイナンシャルプランニグ技能士とCFPは同等の資格、2級のファイナンシャルプランニング技能士とAFPが同等の資格となっています。

<FPの活用範囲>

FPが常駐していればアポのない納税相談にも対応できますし、さらに日常繰り返される財産調査にアドバイスが得られたり、差押財産の選択、生活困窮の判断のほかに、FPは事務能力も高くてコンプライアンスも厳格な職業ですから、大半の業務に対応できます。つまり、催促すれば納める人、納めない人以外にも納められない人への対応も可能になって、これまで抱えていたボトルネックが解消できるようになります。

14 [悪質滞納者は都道府県のOBを頼る]

滞納処分に対してどれほど強力なクレームが入っても、指導者が盾になってくれるのなら安心感があります。

<職員サイドの不安を取り除く>

市町村の徴税吏員だからといって、研修にも行っているわけですから徴税力が大きく劣るようなことはないはずです。しかし、滞納解消のための寄り添いを拒否し、敵対して納める気のない住民、とりわけ知り合いなどの差押えは気が重いものです。
それならば、都道府県の徴税係長などの経験を持つOBを任期付き職員として採用して、研修を建前に先導してもらえばよいでしょう。前例としては東京都の堀さん(元徴収部指導課長堀博晴氏)が有名です。職員はその手足として仕事をすることになりますから、滞納者に対する抵抗感は薄まります。

<滞納整理は広範囲が効果的>

少し話がそれますが、他の市町村に居住する滞納者はその多くが「転出した人たち」で、勤めなどもあるので周辺の市町村にいることが多いものです。一方で、滞納者が転出しているということは、他の市町村の滞納者もその割合で転入しているということになります。つまり、市町村内の滞納者の増減が転出する人に占める滞納者の割合にも比例しますから、皆さんの滞納整理が他の市町村の徴税吏員に影響を与えていることにもなるのです。
さて、徴税OBの活用に課題があるとすれば、任期付きなので定期的に新しいOBを迎えなければならなかったり、民活も派遣なら5年縛りや3年縛りがありますから、定期的にメンバーを入れ替える必要が出てくるのですが、一方で滞納者は引っ越して近隣の市町村であることが多い傾向にあるのですから、これらを考えあわせると滞納整理は広範囲で行ったほうが効果的ということになります。つまり、民活の導入も周辺の市町村と歩調を合わせることで、メンバーのやりくりなどが効率的にもなります。
徴税に特化した人材バンクのような組織が作れれば、各市町村がスムーズにOBや派遣の入れ替えもできることになりますから、計画的に対応できるようになります。徴税OBは組織化で再任用の母体が新たに生まれるので、定年後の受け皿ともなるでしょうし、FPも徴税に特化することで新たな窓口が作れるはずなのです。

<民活で最強の布陣>

徴収率改善のポイントは、適材を適所に配置するということです。現状維持の滞納整理に対して多くの滞納者を処理するマンパワーやシステムを加えたり、充分な知識や経験による徴税の先導を受けたり、徴税や停止に係るお金に関する知識を補充したりして人手不足・人財不足を補うことによって、多くのボトルネックが解消できるのです。

<人口規模の小さな組織だからこそ>

滞納処分未満の処理は機械やマンパワーに頼り、またOBなどの先導で公権力の行使が強力に実行できるような仕組みが作れるのならば、規模の小さな市町村であっても十二分に期待に応えられる滞納整理ができることになります。徴税吏員は徴税吏員でしかできない公権力の行使の部分を受け持つという役割になるからです。
押し付けたり決め付けたりするものではありませんが、法を順守した滞納整理に人手が足りないなら、自治体としては補うという手もあるということです。また、一気に取り込んでしまえなくても、結果を見ながら拡大させていくこともできますし、最強の布陣ができて徴税力や体制が整って民活に頼らなくても対応できるようになったら、縮小させることもできます。要は不足も補えば、住民の財産を捨てずに守ることができるということなのです。

15 [徴税吏員である今をどう過ごすか]

<予算は管理職が用意する>

こんなことを申し上げると、「民間活力の導入なんて机上の空論だ。予算がつかなければ何もできないよ」などと言う人がいますが、歳出予算が必要ならば管理職は財政担当に、予算編成に必要な歳入予算の情報を伝えるときに、さりげなくそれも伝えることです。
歳入予算というのは徴税吏員が調定額に来年度の見込み徴収率を掛け合わせて作っているわけですから、徴税の歳出予算が削られれば徴税計画が狂って、歳入予算にも影響が出るのはしかたがありません。これはきわめて当たり前のことなのです。
私は「私の歳出予算を削るなら歳入も2千万円くらいは削っておかないと歳入欠陥起こすから、その始末も頭の片隅に置いておいてね」と忠告しておきました。徴収率が上がれば地方交付税等も増えて税外収入が増収になりますし、徴収率が上がれば不納欠損額も減って、住民の財産を守ることにつながります。一方で、徴税吏員が動けなければ徴収率が下がることは、新型コロナへの対応を見ても明らかなのです。
ぜひ、管理職は徴税吏員が働きやすい環境を整えて、納税者の負託に応えていただきたいと願っています。

<動けば結果は付いてくる>

徴税費は歳出の中の一握りにすぎませんが、徴収率が上がったり不納欠損額が減っていけば目立ちますから、理事者からも議員からも評価されます。徴税吏員は自らその数字を作れるわけですから、現状を見直して少しの工夫をすることで昇給や昇格も手に入れられる立ち位置にいるのです。やろうとする人が動けば結果は付いてきます。「やらない」「やれない」言い訳は聞かないことです。
令和元年度の全国市町村徴収実績調書を見ると、滞繰調定額の平均値は2億9519万3千円でしたから、滞繰徴収率を1%上げれば295万1千円の増収になるのです。つまりざっくり計算してみても、徴税吏員ならば民活の委託費の財源は簡単に作り出せるということです。新たな滞納整理に取り組むということは、増収になることが必然だからです。
ピンチをチャンスとして捉えれば、苦手な分野を外注することで、使える人だけを集められるという利点に変えられます。しかし、優秀な人に頼みごとをすると、財産調査をベテランパートに任せている市町村の例を見るまでもなく、職員は煽られてしまうことは仕方がない。つまり、皆さんにはまだまだ伸びしろがあるということなのです。

<Y=aX>

コンサルタントの山崎将志さんは「仕事オンチな働き者」(日本経済新聞出版部)の中で、仕事はY=aXで表せると言っています。aは定数ですから環境です。自分であるXが変われば仕事の結果であるYも変わるというものですが、環境aを見直せば、その結果は何倍にも大きく変えることができるというのです。
十分な教育と、組織や人員が揃っている国税でも徴収率は100%にはなっていません。市町村の徴税の限界は、環境を変えることで打ち破れるはずですから、徴税吏員である今を有効に過ごしてほしいと願っています。

以上です。ご清聴ありがとうございました。